web漫画レビュー――『派遣の谷』


2014/07/28



2007のギリギリ上半期に連載開始。
どこだかよく分からない世界の一派遣企業のお話。
もともと「超派遣」というタイトルで連載開始したが同名の企業が実在したのでなんとなく「派遣の谷」に変更したというどうでもいい経歴を持つ。(ワロスwikiより。)


……という訳で、
web漫画レビュー17回目。
今回も引き続き“少年ワロス”で連載中の漫画の紹介です。

驚くことに、
なんと今年で7周年!
『派遣の谷』の紹介です。
作者は“肋骨凹介(あばらぼねへこすけ)”さん。

既に作者名からして、面白そうな雰囲気が漂ってますねw

URLはこちら。
ttp://books.vipdoor.info/comic/ww2291

ttp://books.vipdoor.info/comic/ww2878
ttp://books.vipdoor.info/comic/ww3871
URLが3つある理由ですが、
2014/7/27現在、
ワロスは新都社で言う、自サイト掲載機能がついてないので、
漫画はすべてワロスの鯖にうpすることになるのですが、
1作品につき容量に限界があるので、
このように登録を分けなければいけない仕様になっています。





※“対の謀反者”終了時の感想となります。


【ジャンル】
王道少年能力バトル漫画

【内容】
「免取」と呼ばれる、
超人的能力を保有する人間が存在する世界観。
人材派遣会社“トルス”は、免取が集まった会社。
彼らは能力を生かし、依頼をこなしていきます。
ときには同じ免取同士戦うことになったり……?



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さて、『派遣の谷』。
私が最初に少年ワロスに来たときからずーっとやってる漫画です。
今でも更新は止まっておらず、
少しずつ更新がされている
漫画。

昔からある漫画がずっと続いていると嬉しいですね。


私がweb漫画レビューを始める際に、
この漫画のレビューは絶対書きたいと
決めていた漫画の1つがこの『派遣の谷』です。

本当に面白い、クオリティの高い漫画で、
簡単にこの漫画を表現すると。
王道能力バトル漫画!
と言った所でしょうか。





まず見ての通り、
画力が高い!


序盤は省エネ作画気味ですが、
途中から一気に丁寧になって読みやすくなります。

絵柄の特徴としては、画面がごちゃごちゃしすぎず、
太めの線ではっきりとした輪郭が描かれている感じです。

好みによるかと思いますが、
やはり線に力があると、
読みやすさが格段に違いますね。


最近の方ですが、
↑の画像の谷さんVS京さんは見ごたえありです。
迫力やばい。


京さんは水を剣状の物体として操り攻撃をしますが、
一振りするだけで背景の岩を破壊したりと、
剣が水という質感を出しつつも、
ものすごく迫力のある描写がしてあります。

それに対応できる主人公もものすごい……。


能力者が戦う漫画だと、
若いイケメンが強いと相場が決まっていますが、
『派遣の谷』では、
強キャラの大半がおっさんというのが見栄えよくて格好いいです。

まず主人公からしてダサい青年ですし!
いい意味で!



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そんな高画力、高クオリティな面が目立ちますが、
内容を見ると、

シュールなギャグが多く、
メタ発言が多い漫画だったりします。




いつも言っているように、
私はメタいネタがあんまり好きじゃなかったりするのですが、
この漫画に限っては特にストレス無く、
すんなりメタを受け入れられました。



初っ端1話からメタネタをぶち込んできているから。
……ということも理由の一つなのだと思いますが、
“真面目”と“おふざけ”の割合が5対5くらいで混ざっているので、
ギャグ漫画としても楽しめる
ということが一番の理由なんじゃないかと思います。


『派遣の谷』で目立った特徴として、
感動的なシーンが見当たりません。


感動できる=面白い漫画
では決してなく。


感動を描写するにもデメリットはあります。

例えば、感動的なシーンを描こうとすると、
どうしても重いシーン等の溜めを描かなければいけなかったりしますが、
この漫画では、熱さと勢いを重視されているようで、
感動成分の一切が排除されています。

感動のシーンは読むのに体力が必要ですが、
笑いと熱さは勢いだけで読めますからね。

読んだあとの後味が最高にいいです。


万が一
今後感動的なシーンがあったとしても、
作中ですぐに茶化されてギャグに変えられる気がします。

それほど、ギャグの比率が高いです。



この何でもかんでも本編に取り入れず、
描きたいものがはっきりとしていて、
無駄な描写は省く
というスタンスが、
『派遣の谷』が面白い所以なのかも知れないです。



7年も続いていれば、
色んなものに影響されて、
色んなものを描いてみたくなりそうなものですが、
1話から最終話まで同じ雰囲気で一貫されているというのが魅力です。



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しかし、一番の魅力は何と言っても、
高い構成力で綺麗に組み立てられた頭脳戦。



能力バトル漫画ということで、
それぞれの能力を極限まで生かした頭脳戦を楽しむことが出来ます。



読んだ感想として、
全体的に、

「そんなことも出来るのかw」

では無く、

「確かに、その手があったか!!」


……というような、
新たな新技で勝利という形ではなく、
初めから提示された条件だけを扱った上で、
読者の予想の斜め上を行くような進行となっています。


そのため、
各人物の能力は速い段階から明かされ、
まだはっきりと本編で能力について明言されていないにも関わらず、
“おまけ”回であっさりと能力の説明がされていたり
します。


能力は全体的に応用の利くような能力で、
だからこそ出し惜しみせずとも、
あっと驚く展開が作れるということも大きいかも知れないですね。

能力選びが上手いです。



数々のバトルがある中、
この漫画1番の名バトルを挙げるとすれば、

『派遣と谷』
クロムのゲーム その①から、
『派遣は谷』弱身を握る その②までの
クロム戦でしょうか。
これが滅茶苦茶面白いです。

ちなみに、ここで戦う人物たちは皆、
初めて戦闘描写及び能力説明が描かれるバトルなので、
ここだけ読んでも十分楽しめると思います。

最初から読むのは時間がかかって面倒だという方は、
ここだけでも読んでみてはどうでしょうか。



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さてさて、
1つ気になったこととして、

私の読解力の低さも原因にありますし、
他のどの漫画にもよくあることなのですが、
登場しているキャラがどういったキャラなのか混乱してしまうことがあることでしょうか。

例えば、読み返せば分かるとは言え、
初見の状態では、
“神田ジェーン”さんあたりで若干「あれ、この人誰だっけ?」という感じになりました。
ちょくちょく何らかの伏線を匂わせつつ登場したりはしていたのですが、
ギャグっぽく何かものを食べているシーンが強調されていたりと、
“そういうとぼけたキャラ”として今後登場するのか、
“暗い性格だけど漫画的なネタとしてものを食べているのか”
ということの見分けがつけにくく、性格も掴みにくかったかも知れません。


『派遣の谷』ではそこまでではないですが、
商業含めた漫画全体に向けての意見としては、
何話も前に登場したキャラクターを、
読者が覚えていること前提に話が組み立てられていると、
読者は混乱してしまいがちになってしまうんじゃないか。
ということです。


作者にとっては、
今後活躍する予定のあるキャラの格好いい登場シーン
も、
読者にとっては
まだ何の愛着も無いキャラクターがよく分からないことを喋っている。


……という風に、作者と読者ですれ違いを起こしてしまうことが多々あるので、
いかに読者目線に立って展開を考えるかということは重要になってきます。

これは『派遣の谷』の話ではありませんが、
ありがちなのは、
序盤で終盤に出てくる予定のキャラを、
意味深な微笑み、台詞と共に描写してしまう。

とかでしょうか。
好みもあるかも知れませんが、
読者にとっては意味わからないシーンというだけになっていたりするので注意です。

ある程度面白いと保障されている商業誌ならともかく、
玉石混交の素人web漫画だからこそ、
読み返したら面白い漫画……ではなく、
読み返さずとも面白い漫画。
を描くことを意識しないといけません。



また、
作者が、一ヶ月以上かけて描いた展開も、
読む側からすれば5分程度でさらっと読んでしまうもの
なので、
作者が自分の感覚に合わせて展開を進めていくと、
読む側は流れについていくことが出来ません。

ゲーム制作でテストプレイを自分でやっていると、
難易度が高くなりがち……と同じようなものでしょうか。


読者は作者の思っているよりも、
漫画のことを理解していないことを知っておく必要がありそうです。



商業漫画でさえもよくあることなので、
web漫画ではより一層気をつけたいですし、

web漫画だと、感想が密接してる分、
読者同士で感想をすり合わせて理解を深めていく部分があって、
コメント欄だけ見ると、読者全員がちゃんと物語を理解しているように見えますが、

普段コメント欄を見ない読者や新規の読者が、
今までのコメントと同じ意見を持ってくださるとは限らない
ので、
新規に読んで頂く読者さんのことを考えるならば、
コメントがすべてだと思わないということも重ねて意識しておく必要がありそうです。



一度説明をしたことでも、
読者が忘れていそうだなと思ったことは、
簡単にでも復習すると親切かも知れません。


つまり結局のところ、

分かりやすく描く。

ことが大切だということですね。






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さて、肋骨凹介さんの別連載漫画として、

ttp://neetsha.jp/inside/comic.php?id=3176
『自由ダム』
もオススメです。


こちらは新都社で不定期連載中の漫画。
新都社しか見てない方は、
こちらだけ読んだことがあるという方もおられるかも知れませんね。


シュール系とは少し違った、
独特なギャグ漫画となっています。


私の中でシュール系のギャグというのは、
意味の分からないネタというイメージがあるのですが、
『自由ダム』のネタはあるあるネタや身近な疑問を取り入れた、
意味の分かるネタとなっています。

例えば、もしかすると、これなんか経験あるんじゃないでしょうか。

この方法だと確かに鞄は濡れないのですが、
傘が凄い持ちにくく歩き辛いんですよね。


これはあくまでも『自由ダム』の1ネタにすぎないので、
すべてがこういう雰囲気のネタではないですが、
こういう感じで、全体的に“分かる笑い”を誘う内容となっています。



このように、
ギャグ漫画が得意な作者さんだからこそ、
『派遣の谷』の
“笑える”王道バトル漫画が完成したのではないでしょうか。


商業漫画に多い欠点として、
王道漫画にギャグが“無理矢理”入れられている感じがする。
というものを私は考えてしまうのですが、
『自由ダム』を見れば分かる通り、
肋骨凹介さんは純粋なギャグ漫画でも面白い作者さんなので、
ギャグありきなバトル漫画というように、
綺麗に混ざりきっている感じがして心地よいです。




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『派遣の谷』


今のところ、そこまでの長編ではないですし、
とにかく面白いので読んで欲しい漫画です。
何だかんだ7年続いているので、
更新ペースは比較的遅めですが、
着実に更新されている漫画なので、安心して読むことが出来ます。



かなりオススメできる漫画なので、
是非是非読んで欲しいです。




URLはこちら。
ttp://books.vipdoor.info/comic/ww2291