web漫画レビュー『配信王子加藤純一』


2017/6/29


今まで紹介してきたweb漫画の中で、
最も危険で俗物な漫画です。

この漫画を紹介するかどうかは長い間悩んでいましたが、
漫画としてかなり面白かったので、
無事、漫画が完結したことを機会に、
マイナスイメージ覚悟で取り上げようと思います。
(……と思っている内に完結日2016年10月22日から随分と時間が過ぎていた)

……という訳で、
『配信王子加藤純一』
の紹介です。




さて『配信王子加藤純一』
作者は、
かんぱちコハダ”様。
掲載サイトは、ニコニコ静画です。
ttp://seiga.nicovideo.jp/comic/19544


この漫画を紹介するには、まず初めに、
主人公のモデルであり、この漫画の核となっている、
うんこちゃんこと“加藤純一という人物について説明しなければなりません。

ニコニコの生放送及び動画投稿サービスで人気のある、
黒に限りなく近い健全系“配信者”。
それが、加藤純一という人物です。



一見すると頭の悪そうな、とにかく叫ぶやり方と、
どんな視聴者でも快く受け入れるスタイルから、
“うんこちゃん”という動画投稿者に、
あまりいい印象を持たれていないという方も多いと思われますが、
実は頭の巡りが早く、真面目で誠実というギャップがコアなファンからは受けているようです。


動画投稿者(配信者)はYouTube、ニコニコを始めとして、
掃いて捨てるほど大量に存在していますが、
趣味で漫画を書いて貰えるほど人間として好かれる配信者はこの人だけ!


今回紹介するこの漫画『配信王子加藤純一』は、
そんな彼を題材にした、“王道バトル少年漫画”です。


登場人物は、
全員、主人公“加藤純一”に纏わる、
元ネタの実在する、
動画投稿者を始めとするライバルたち。


台詞や行動1つ1つに由来があるので、
それぞれ元ネタを知っているとより楽しめるかも知れません。




ただただネタを詰め込むだけではなく、
ネタをストーリーに上手く詰め込む構成力が凄いです。

コマ割りに関しても少年漫画の基本をよく抑えられており、
コマごとの時間経過速度が読み取りやすく、
漫画というコンテンツの長所を伸ばしたような、
まさに王道、漫画の教科書とも言えるような作品です。


リズムに乗ってテンポよく読み進められるので、
戦闘シーンに爽快感が生まれます。


描きこみ自体は荒々しい作品ですが、
背景のベタ塗りや集中線が非常に効果的に使用されており、
そういったところも構成力のよさの一端で、
テンポよく読ませるための秘訣だと思われます。

激しいギャグ系web漫画では、とにかく集中線を多用する作品も多いですが、
この『配信王子加藤純一』では、作品の激しい印象に反して、
意外と集中線の使われていないコマが多いです。

全体の構成を通して、
コマ割りに静と動を持たせる技術は、
題材の滅茶苦茶さ故に伝わりにくくなっていますが、本当にレベルが高いです。

某バスケ漫画を彷彿とさせる展開。
内容自体はどうしようもなく馬鹿馬鹿しいものではあるのですが、
謎の熱さと勢いが、馬鹿馬鹿しさすら頭から消し去ってくれます。

笑いと熱さ。
これぞ王道少年漫画の基本です。



時間を忘れて読むことが出来た漫画は久しぶりでした。



物語はトーナメント編に突入し、
右肩上がりの盛り上がりを見せてくれます。


次々に飛び出す名言の数々。
漫画の作者“かんぱちコハダ”様の技量もさることながら、
元ネタである“加藤純一”様の汎用性の高いボキャブラリの幅広さにも驚きます。

元ネタを知らなくても、
面白い台詞回しになっていますので、
初見の方にもオススメ出来ます。


私は当時、連載を追いかけていましたが、
続きがどうなるのか気になる!
……ということは実はあまりありませんでしたが、
1話1話が面白い。
ストーリーで魅せるのではなく、
台詞の使い方が非常に面白い作品です。




バトル漫画としての迫力も申し分ないです。

インターネットの情勢は半年でもガラっと変わってしまうので、
少しネタが古い部分もあったりしますが、
2015年~2016年あたりにあった“ニコニコ”の勢いが漫画に注ぎ込まれています。

ラスボス感といいますが、
敵も味方も死に物狂いで戦う姿が格好いい。





“鋼兵”さんなど、
モブキャラもネタが細かいです。

吹き出しの中に手書きの文字を入れて勢いを出す手法は、
うまく使用しないと、
ただ雑に見えてしまうだけ。
……になってしまうことが多いですが、
ギャグと勢いにマッチしていて、
この漫画ではプラスの方向に働いています。


このページで使用されているのは、
有名なセリフですが、
キメ台詞は次のページ!
気になる方は本編でお確かめ下さい!


「パシ」!……という、
静かなコマが最後に含まれていますが、
この間の取り方が絶妙で、
緩急で笑ってしまうのです。





絵もそこまで上手いという訳ではありませんが、
前後の流れを合わせた構図が上手く、
むしろこの画風だからこそ出せるインパクトがあるように思えます。

画力を補う「構図力」。
例えば要因の一つとして、
このページでは“書き文字”のバリエーション。

1コマ目では、ドン!という縁付き文字と、
ふわふわというペン字。

不屈の魂で這い上がってきた勢いがありながらも、
ふわふわとした浮遊感という真反対のものを、
確かに両方とも感じさせられて、
書き文字の漫画における重要性がよく分かります。

“かんぱちコハダ”様は漫画の強みが何かを熟知されています。




私が広島県で育ったので、
原爆関係のネタにはいい印象を持てないですが、
この悪役感は素晴らしいです。
MSSPがやったんだ…

この漫画では色んな人気動画投稿者が悪役っぽく描かれていますが、
これは“加藤純一”様の、
自分より人気がある投稿者に嫉妬してしまうという性格から来るものです。

ただ、ここで勘違いして欲しくないところは、
“加藤純一”様が暴言を吐く際は、
ネタ的な意味合いが99%ということです。

時折、本気にしてしまう視聴者の方も多々おられるようですが、
この漫画では、ネタで罵っているニュアンスをきちんと理解し、
悪役として描かれている人物でも、
それぞれのカッコよさ、面白さが漫画の中で活かされています。



“かんぱちコハダ”様の、
ニコニコ全体に対する愛が伝わる作品です。





ラストはカラーのページで〆!!
最終話の後も、こっそり読み切り短編を投稿されていたりするので、
興味を持った方は是非読んでみることをオススメします!

学べることが多い漫画だと思います。

そして舞台はニコニコを超えて…………?