web漫画レビュー――『ピーチボーイリバーサイド』


2013/08/09


今日は『ピーチボーイリバーサイド』の紹介。

作者はクール教信者先生。
新都社、ヤングVIPで連載中(現在停滞気味)です。
※90話1終了時点での感想となります。
http://ilovecool.web.fc2.com/1/index.html




【ジャンル】
ファンタジー漫画

【あらすじ】
主人公サルトリーヌは、
ミコトという旅人と出会い、
自らも旅に出ることを決意します。
道中でうさぎのフラウ。
ただの人間、ホーソン。
鬼のキャロットという3人の仲間と出会い、
人間と鬼が共存するにはどうすればいいかを考えていきます。




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こういう王道ファンタジーは商業漫画ではなかなか見られない。
大量更新が可能な新都社だからこその漫画。


かなりの長編となっています。
個人的に面白くなると思ったのは、
55話の「雷こええええええええ!!」あたりから。

そこまでは少し地味な話が続くので、
web漫画に慣れてない方にとっては少しつらいかも知れません。

また、後半につれて情報量が多くなってきて混乱してくると思います。
私も3回読み直してやっと物語の全部を理解出来たくらいです。

ですから、他人にオススメできるかどうかと言えば微妙かも知れません。
それでも物語を理解出来てからのこの漫画の面白さは本物ですので、
web漫画に慣れている……という方には是非読んでもらいたい作品です。

まあ少しでも興味のある方は、間章として、
66話と67話は、それ単体でもある程度楽しめるようになっているので、
まず、そちらを読んで物語の雰囲気を掴んでもらえればなと思います。








さて、
PBR(ピーチボーイリバーサイド)という漫画の魅力とは、
まず一番に、台詞の格好良さということが挙げられます。

ネタとシリアスを交えたテンポのよい会話で物語は進行し、
山場には心に響く、力のある台詞を持ってきます。

(下のほうで好きなシーンをいくつか挙げているので参考にどうぞ)


それから、魅力のあるキャラクターたちが多く登場するのも特徴。
主人公は一応“サリー”という女の子ではあるのですが、
ホーソン、ミコト、クロウの3人も見方によっては同じく主人公と言えるでしょう。
時点で遊鬼様、チュウ、轟鬼……等など。
クール教信者先生の引き出しの多さには驚かされます。

物語が進むたび、登場人物全員が精神的に成長していくにも関わらず、
それぞれがそれぞれの意思を孤立して持っていて、
キャラ被りを起こすといったことがありません。

様々な考え方が交じり合って、
それによって導かれた結果がどうなるのか。

正論を言っているように見えて、
実は相手が正しかった。


そんな展開が2重3重にもひっくり返されていく、
厚みのある物語展開は、PBRの人気が納得できるものとなっています。







この2つが顕著に現れているのが、
7章、レジェディア編。

物語はお姫様であるドメニカの演説から始まります。

戦争は酷く悲惨なものである。
私は戦争は止めたが、たいしたことはしていない。
「私はやめろと言っただけです」

ドメニカの演説を聞いて、
登場人物の一人は、「普通だな」と思い。
また一人は、イカレていると思います。
「やめろ」という言葉。
聞かせる対象がいるのは戦場に決まっています。
「矢とか砲弾とか血走った兵隊とかよ…
 そこのど真ん中でやめろと叫ぶんだ?イカれてる」


そして主人公は、素敵ねと呟き、
仲間の一人は、評価できませんと考える。


……という風に、
登場人物それぞれが違った考えを持っているのが分かりますね。
これが同時に進行していくのだから、見事なものです。





それから近いうちに戦争が起こるという話を聞き、
ドメニカは人間の罪人を言わば人間兵器のようにして戦わせようと企みます。
ドメニカは戦争は悲惨なものであると言ったが、
決して戦争をしてはならないと言ってはいない。
ドメニカは夢物語を唄っているように見えて、
かなりの現実主義者でもあるのでした。

その様子を見た登場人物の一人は、それを否定しますが、
これが本当に正論っぽく描かれるのです。
まあ実際に正論ではあるのですが、
作中の結末、ドメニカの本心を含めて考えると、
間違っていたのはその登場人物の方だったというオチ。




――そして結局、
最終的にドメニカは国を守るため、自らの命を投げ出すのですが、
ここでの主人公のモノローグが印象に残っているので、少し紹介させていただきます。





生き方っていうのはさ
何かの魂を削っていくことなんだよ
綺麗に磨こうとしたり…
ほっぽってくすませたり…
削って
削って
削って
削って
削って
削って

削って…

ドメニカは…

そのまま削りきって消えてしまった…






……とこんな具合。
文章だけでも印象的ですが、
実際はこれと絵と組み合わさったり、
これまでに布石の積み重ねがあったりするので、
台詞の重みが何十倍にもなると考えてください。


台詞の選び方が本当に上手いです。









――――それでは他に、
個人的に名シーンだと思うものを
3つ程選んでみました。





六十九話「ジュセリノ」




八十三話「夜の果てへの旅の終わり」




八十六話「クロウサギ笑う(前編)」





他にも好きなシーンは多々ありますが、
すべて挙げるとキリが無いのでこの辺に。

改めてみると本当に、
台詞もキャラクター魅力的ですね。

ジュセリノとホーソンのカップリングは言わずもがな、
今まで謎だった未鬼が必死になるところも良いですし。
そして遊鬼様パネェ



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クール教信者先生ですが、
現在6つの漫画を同時に連載している商業作家でもあったりします。
さすがはプロというところで、漫画のクオリティは保障できますね。
そしてやはり、同時にいくつもの作品を描けるという視点の多さ。
上の方でも散々言いましたが、
クール教信者先生の一番の武器は、
多くの登場人物を同時に動かすことが出来る点
なのではないでしょうか。


あと、ジュセリノ可愛いです。





作者が商業入りする前でも、
過去の新都社ランキングではぶっちぎりの1位だったりと、
実績は十分なピーチボーイリバーサイド。
合うかどうかは分かりませんが、
是非一度読んでみてはいかがでしょう!







最後に、PBRを読む際の注意。
たまに“続き”のリンクが付いてなかったりするので、
油断していると、話数を読み飛ばしてしまうことも少なくありません。
ちゃんと各話リンクを踏めているか確認しつつ読んでいくことをオススメします。

それと、おまけと本編が繋がっていることもあるので、お見逃しなく。