web漫画レビュー――『平穏世代の韋駄天達』


2013/08/10


私が新都社で一番好きな漫画。
『平穏世代の韋駄天達』
の紹介です。



新都社、少年VIPで連載中。
作者は天原先生です。
http://amahara.bob.buttobi.net/
※26話2、8p更新時点での感想となります。



【ジャンル】
バトル漫画

【あらすじ】
韋駄天と魔族の戦いが終わった平和な時代。
そんな時代に生まれた平和ぼけした韋駄天たちが、
密かに生き残り、復興を企んでいた魔族たちと対面。
正義も愛も何もない、魔族を滅ぼすためだけの戦いが始まります。




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まず言いたいことが、
主人公たち“韋駄天側”が敵である魔族よりも圧倒的に強いということ。

韋駄天とは、生物達の意思の集まった思念体であり、
人間の形はしていますが、呼吸をする必要も無ければ、体重を好きに操ることが出来たり、
魔法を使うこともでき、様々なシステムを自由に改変することが出来たり等など……。
それから串刺しにされたくらいでは死なず、
体を真っ二つにされても数日後には再生するような、
とにかく基本何でもありなチート能力を持っています。

対して敵である魔族の能力は、
力の強い、たまに触手が生えてたりする人間という程度。



敵と見方のパワーバランスは、
そんな奇抜な調整となっています。

そんな設定であっても、その内容はよく練られているため、
漫画としてワンパターンな展開になったり、
単純に韋駄天側のワンマンショーとなることはありません。




……という訳で、
この漫画の一番の持ち味は、
“設定”ですね。


魔族の存在するような、
ファンタジーな世界観にあるにも関わらず、
設定が作りこまれているだけに、
現実的であると感じさせられます。


現実味があるからこそ、
バトルのメインである頭脳戦が映えます。

××だから○○になる。
絶対にあり得ることのない状況であっても、
その説得力は絶大です。

あくまでも現実的な、理に適っている展開で、
したがって展開の予想も可能な範囲内であり、
しかし、それでも予測できない展開には、
驚かせられること間違いなしです。


先の展開はコメントでの反応を見られて決めている作者さんで、
例えば、作中のキーとなる魔王の正体については、
コメントで予想されたら早めに正体を明かそうと決めていたらしく、
結局予想は当てられなかったようですが、
こういった機転の利く話作りが出来るのもweb漫画の魅力であり、
天原先生のストーリーを臨機応変に組み立てる技術の表れでもありますね。

まあ、悪く言えば、
プロットがしっかりしていない行き当たりばったりな漫画、
ということでもあるのかも知れませんが、
それでも物語に一本の筋は通っていて、gdgd展開はありません。



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現在、20話までの1部と
21話からの2部に分かれていますが、
1部では圧倒的に魔族よりも強い韋駄天たちの無双を楽しむ展開、
2部ではそんな韋駄天たちに魔族はどう立ち向かっていくかが見所となっています。



平穏世代の韋駄天達における代表的なトリックは、
魔王との連絡を取るために魔族の調教師“ミク”が考えた、
「バッチョロゲな気分~(意味不明★)」
でしょうか。



これは、
予め特定の単語をキーワードとして決めておいて、それをブログに書き込み、
検索用の自動巡回ツールにその単語を拾わせるという作戦。
ここでは“バッチョロゲな気分”という単語がキーワードですね。
周囲から見るとただの馬鹿な日記としてしか映らず、
韋駄天からは絶対にバレないように連絡が取れるという訳です。

ちなみにブログは、ネット上で、
周囲との人間関係が希薄な人間を調べ、
その人間を殺して乗っ取ったものであり、
つまりは、その人間の家がどこにあるかの情報は
ごくごく自然なレベルで漏れている……ということになります。

だから、ブログにキーワードとなる単語を書き込めば、
あとは自動巡回ツールでその単語を拾った魔王が、
勝手にブログの主の家を調べれば連絡の取り合いは完了です。

私の説明が下手すぎてよく分からないかと思いますが、
本編を見てください、ごめんなさい(汗
私の説明で雰囲気だけでも掴んでいただければ幸いです。




ミクはこの他にも、色々な作戦を考えていて、
次は何をしでかすのだろうかと、わくわくさせられっぱなしです。

時には、仲間を見捨てる作戦も……。



さて、
「バッチョロゲな気分~」
の作戦ですが、実はこれ、
天原先生が実際にネット上に何年か前に仕掛けておいて、
有用性の確認済みなもの
だったりします。

仕掛けた当時は、
韋駄天用のトリックのつもりな訳ではなかったようですが、
考えたトリックをストックしておいて、
それを的確なタイミングで消化する。

……ということは、なかなかに難しいことです。

流石という他ありません。








しかし、平穏世代の韋駄天達の魅力は、
上記のような変化球的展開だけではありません。



ど直球勝負も面白い。

魔族に勝ち目は無いと理解しつつも、
それでも戦わない訳にはいかない。

仲間のためにも、家族のためにも……。
自分の命を引き換えにしてでも――




こんな熱い展開も要所要所で効果的に使われていて、
漫画の面白さを引き立てます。

むしろ、頭脳戦はこの直球勝負を引き立てるためのものであるとも言えます。


それから、いわゆる“必殺技”がないのもいいですね。
どうせ新技で逆転勝ちするんだろ?みたいなファンタジー感が無く、
現実的な熱さを感じられます。






変化球も直球も総じてweb漫画レベルを超えている……、

……ってどっちも格好いいの敵側じゃないか!

それが平穏世代の韋駄天達という漫画!
まあ主人公達に魅力が無いのかと言うと、そういうことも全然ないです。








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絵が苦手……という方もいるかも知れませんが、
どういう動作、状況を表しているコマなのかは分かりやすく、
非常に読みやすいです。
作者さんには絵のこだわりが無いのかと言えば、そういうことも無く、
ここの描写が分かりにくいという指摘があれば、
そのシーンの修正を行う場合もあり、
漫画の読みやすさに関しての妥協は一切行わない作者さんなので、
パっと見の先入観で雑なイメージを持たず、
是非とも読んでみて欲しい漫画です。



最初にも書きましたが、私の一番好きな漫画です。