web漫画レビュー――『ヒトクイ』


2013/09/13


今回紹介するのは、新都社連載中の
『ヒトクイ』

もはや紹介する必要も無いほどの人気作。

web漫画らしい漫画でありながら、
クオリティの高い漫画でもあるので、
かなりオススメできる漫画です。



『ヒトクイ』
作者は“MITA”さんです。

http://comichitokui.web.fc2.com/index.html

※96話3p更新時点での感想となります。
以下gdgd注意。





【ジャンル】
ファンタジー脱出サスペンス



【内容】
ヒトクイ。
人を自分の巣(精神世界)に引き込んで捕食する生き物。
その正体は、脳に異常をきたした人間である。

ヒトクイは人を喰らう際、
何人かの人間を巣に引きずり込むが、
ヒトクイの巣では、いくつかのルールが存在する。

1、巣内の人間が最後の1人となれば、巣は崩壊する。
  =生き残った最後の一人は巣から解放される。

2、巣のヒトクイが捕食を諦めれば、巣は崩壊する。

3、巣のヒトクイが死ねば、巣は崩壊する。


つまり、
工夫次第では、ヒトクイの巣から脱出することも可能であり、
それを知った主人公“中村陽太”は、巣から脱出する策を張り巡らせる。
……という物語。

そんな中、“喰人”と名乗る、“佐々木アキラ”という男と出会う。

そして――







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ヒトクイの魅力とは、
まず“設定のよさ”ではないでしょうか。


いわゆるデスゲームものなのですが、
ヒトクイの設定は、
商業漫画、映画などと比較をしてみても、
十分に通用するレベルによく出来た設定なのではないかと思います。



今まで、色々なweb漫画を紹介してきましたが、
かつてないほどに、あらすじが書きやすかったです。

改めて見ても、ヒトクイの設定は本当によく出来てます。


これに別の様々な要素も混じってくるのだから凄い。


複雑な設定であるから、
伏線考察が楽しい。


設定はよく出来たものであるから、
様々な伏線が張られつつも、
それが目障りにならず、
ストーリーが頭に入ってくる。



終わりまでの展開の組み立てが完成されているのだなと分かります。
趣味であるweb漫画で、ここまで完成させられた長編漫画を描けるというのは、
本当に才能です。


設定のよさ。



漫画を描く上で、
“設定を練る”ことがどれ程有意義なものか分かりますね。


これから漫画を描こうと思っている方は、
まず“あらすじ”を意識して書いてみるのはどうでしょうか。


私は、終わりまでのプロットを書いておく必要は無いと思っています。
web漫画で、漫画の描き方も分からない素人が、
漫画を描く前からプロットを作っても、
そのプロットを漫画にする上で何かと不都合も生じると思いますし、
描くことが決まっていると、漫画を描いていて楽しくありません。
仕事では無いのだから、
漫画を描いて楽しくなければ意味が無いです。

……という訳で、
プロット自体はある程度の要点をまとめるだけで、
そこまで真剣に組み立てる必要は無いと思うのですが、
“あらすじ”は練るだけ練っても不都合は生じません。


設定の面白い漫画は、あらすじも書きやすいですし、
あらすじは物語の掴みの部分になるのだから重要です。
また、設定がしっかりしていると、
後の展開も組み立てやすいです。

ですから、
“あらすじ”をしっかりさせる。
というのは、
低労力で面白い漫画を描くためにも有効なのではないでしょうか。






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設定のよさと言えば、
登場人物の個性もなかなかのものです。



主人公“中村陽太”は卑怯ですし、
喰人“佐々木アキラ”は厨二病。
他にも、脳筋、天才詐欺師、おじいちゃん、おばあちゃん。
キャラの濃い登場人物が数多く存在します。



一見やり過ぎなほどのキャラ付けですが、
漫画としてみると、
やり過ぎな方が丁度いいんですよね。



やり過ぎ……というのは、
描いている作者が一番感じてしまうので、
キャラ付けをためらってしまうことも多々ありますが、
恥を捨ててガンガンキャラ付けしていくべきです。

作者が恥を捨てて描いたものが、
読者にとっては丁度いい。


むしろ恥を持って描いてしまったものは、
読者からしてみると、キャラの見分けが付かない。

……というくらいの認識でいいと思います。


また、無駄にリアルな感情を持ったキャラを作ろうとしてしまいがちですが、
漫画を描く人間が一人である以上、
リアルな感情を持たせた上でキャラ付けをするのは不可能です。

様々な感情から成り立っているという、
人間の様々な部分を描きたいという気持ちも分かりますが、
ある程度、持たせる感情を絞ることも漫画を描く上では大切ですし、
感情を絞っても案外リアルに見えます。





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設定も重要ですが、
もちろんその中身も肝心。

ひねくれた展開が続く中、
その一つ一つは王道です。




例えばこのシーン。

私の一番印象に残っているシーンなのですが、
台詞に力がありますよね。

「カンチガイでジゴクに落ちろ」


カタカナ文字なのは、
場面が過去編なので、
小学生らしさを出すためだとは思うのですが、
このカタカナ文字がいい味を出してます。





以前書き忘れていましたが、
ピーチボーイリバーサイド以下セクロスとか、
ああいう名言を作れるって凄いと思います。

どんなに奇抜な展開を描いても、
肝心なのは台詞の威力ですからね。



その点ヒトクイは、


「他人の為に命をかけるなんざ……馬鹿のすることだ!」

からの

「理解できやしねえさ…」


の流れなど、
構成はもちろん、台詞の破壊力も凄い。


本気で鳥肌立ちます。





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さて、ヒトクイ。
web漫画サイト“裏サンデー”で、
“佐々木アキラ”を主人公としたもう一つの物語を連載中だったりします。
タイトルは 『ヒト喰イ』 





『ヒト喰イ』
作画担当は“太田羊羹”さん

綺麗な絵でヒトクイの世界を楽しむことが出来ます。
http://urasunday.com/hitokui/index.html


外伝的なものかと思いきや、
本編との関係性が強く
また、本編を読んでいるからこそ楽しめるシーンも多く存在します。




『ヒトクイ』連載時では、
このような物語を描く予定は無かっただろうにも関わらず、
よくここまで本編との関わりを持たせられるなあという印象。

『ヒトクイ』の登場キャラも、
多数『ヒト喰イ』に出演していますが、
決してパラレルワールドという訳ではなく、
(恐らく)同一世界上の物語となっています。



単行本も出ているので、
気になる方は是非購入をオススメします。
面白いです。






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さらにさらに、
ヒトクイとの関連性のあるのは、
『ヒト喰イ』だけではありません。


こちらの関連性は『ヒト喰イ』ほど強くないとは言え、
“来栖大樹”“花岡”といった、ヒトクイキャラが登場します。

MITA先生の処女作。
『Happy Life』

こちらは完結作品となります。


ヒトクイが完結していない上、
伏線回収もまだ終えていないにも関わらず、
ここまで評価されているのは、
この作品のおかげと言ってもいいかも知れません。

滅茶苦茶いい話(?)です。



最初の内は、
どういう話なのかよく分からず、
退屈に感じてしまうかも知れません
が、
日常に張り巡らされた伏線が一気に回収される際
読んでよかったと必ず感じます。

完結作であるため、
今のところ、
伏線回収の爽快感はヒトクイよりも上です。

MITA先生の漫画が好きな方は、
是非一度読んでみてはいかがでしょうか。









『Happy Life』の世界は、
『ヒトクイ』には持ち出さないと聞きましたが、
『ヒト喰イ』には関連するのかどうかわかりません。




とにかく、
MITA先生の魅力は“設定”そして、
その設定を生かした“熱い展開”“伏線を張る上手さ”。


作品と作品に関連性を持たせる、
発想の柔軟さが特徴です。


2013/9/11発売のサンデーでも
『ヒト喰イ』の読みきりが載りましたが、
そこでも『ヒト喰イ』ヒロインの成長した姿が……?


完結間際の伏線回収を心待ちにしつつ、
しかし物語が終わって欲しくないという両方の気持ちを持ってしまう。

そんな漫画です。